03 【レファレンス】宇宙の芸術
執筆者:塚本 隆大(未来社会創成研究院 DLab+ URA)
様々な神話やおとぎ話…宇宙に瞬く星々や天文現象は古代より私たちの想像力を刺激してきました。本ページでは、そうした創造的実践の内でも、実際に人間が宇宙空間へと進出しはじめようとした時期–1958年以降–のものを中心に、関連する先行事例・研究・その未来の可能性の紹介を行っていきます。
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宇宙芸術を包括的に知る
まずは宇宙芸術の多様な実践やその定義・意義についての包括的研究群を紹介していきます。
Malina, F. J. 1970. “On the Visual Fine Arts in the Space Age”Leonald 3(3)pp323-325.
宇宙開発の進展を背景に、その経験が視覚芸術に及ぼす影響を、実際の作品と共に考える。宇宙芸術に関する最も基礎的な定義––(1)宇宙飛行技術の発展の中、新たに登場したテクニックや素材を用いて地球上で制作されたもの。宇宙探査における視覚的体験を組み込んでいる。(2)そうした体験の心理的側面や人類と宇宙に関する新たな哲学的概念の可能性を表現する為に、地球上で制作されたもの。(3)月や他の惑星で制作・使用されるもの―を示した。
Malina,R. F. 1991. “In Defense of Space Art: The Role of the Artist in Space Exploration” International Astronomical Union Colloquium (112)pp145 – pp152.
宇宙開発をテーマとするアート作品の意義について考察。実際の作例を多数、紹介。また、そうした作品群の安全面やそれにまつわる審査の在り方、倫理的問題についても具体的に論じる(例えば、宇宙空間に作品を打ち上げる場合、それが最終的にスペースデブリになってしまう危険性があるが、どのように対処しうるだろうか)。
Woods, A. 2019. “Art to the Stars – An Astronautical Perspective on the Arts and Space”
宇宙ステーション向けにデザインされたアート、人工衛星などに装着されるアート、微重力環境でのパフォーマンスアートなど、近年の宇宙開発の成果を背景により細やかな宇宙芸術の区分と紹介を行う。特に近年の実践例を確認する上で有用。
Raitt, D. 2019.“Space and the Arts”
上記のウッズ同様、近年の宇宙開発の成果や動向も含んで宇宙芸術のジャンル分けを行う。著者が欧州宇宙機関の人間であることから、近年の同地域における実践や動向が詳しい。
Hays, K. et al 2020. “Creativity and Cognition in Extreme Environments: The Space Arts as a Case Study” Environmental Psychology 11.
上記、ウッズの論考を援用しながら、より包括的な宇宙芸術の分類法を提案。宇宙という特殊空間内での創造性についても言及。
Change, Y.2022“Space-age aesthetics in modern art inspired by space exploration: A brief
study on installation, painting and music art” Acta Astronautica(199)pp355-pp363.
初期から現在に至るまでの様々な宇宙芸術を紹介。ロシアや中国、台湾などの実践も含んでいる点に特徴がある。
美術手帖 vol.71 NO.1078(2019年10月号)『アーティストの為の宇宙論』
宇宙芸術についての特集号。カラー写真での作品解説をはじめ、宇宙開発における用語解説や近年の論点の紹介、実際のアーティストらへのインタビューなどがあり、読みやすい。地球生命研究所長・関根康人とアートチーム目[mé]の対談も収録。
逢坂卓郎 2023「宇宙での知的活動の展開―芸術の取り組みと展望―」日本航空宇宙学会誌71(5)pp129-pp135.
20世紀半ばごろの登場した、重力からの解放を目指す「ゼログラヴィティ・アート」と接続しながらISSで行われた実践などを紹介。また紀元前の天体観測技術、1960年代のランドアートなどの事例紹介を通して、宇宙芸術のより根源的なルーツを探る。
生熊源治 2024『ロシア宇宙芸術』水声社.
史上初となる有人宇宙飛行、人工衛星の打ち上げなど、宇宙開発の初期においてロシアは主要な役割を果たしてきた。そうした中、進展していった同国の宇宙芸術の現代に至るまでの歴史を追う。
宇宙芸術の様々な事例を知る―代表的作品を軸に––
宇宙開発をテーマとする絵画作品からはじまり、宇宙船や惑星表面上での様々な作品展開など、宇宙芸術には多様な実践が存在しています。ここでは、その内容について、代表的な作例を提示していきます。
Ulrich, B. 2024 “NASA and Art”
NASAによる1962年のアートプログラムの、NASA自身による紹介。当時の長官ジェームズ・ウェッブは、人類の宇宙進出という大きな出来事の記録と解釈にアーティストの力を動員することで、将来世代とアメリカ芸術の歴史に大きな貢献ができると考えた。実際の宇宙開発の現場にアーティストが密着し、その様子などを絵画作品とした。
Eyewitness to Space
https://airandspace.si.edu/collections/eyewitness-to-space
上記のNASAのアートプログラムの成果をもとにナショナルミュージアムで開かれた展覧会のアーカイブ。当時の作品画像を多数、確認できる。
the International Association of Astronomical Artists
1982年に設立した国際天文芸術家協会のHP。宇宙に触発された絵画や音楽、ワークショップなどの記録を見ることができる。独自の用語集や、宇宙芸術(イラスト)に関するデータべ―スの作成も行っている。
Hoeydonck,P, V. 2020 “Fallen Astronaut”
https://paulvanhoeydonck.com/man-on-the-moon.html
技術の進展と共に宇宙空間で展開される作品が現れ始めた。上記はアーティスト、ポール・ヴァン・ホーイドンク本人の1971年の実践に関するwebサイト。彼はアルミ製の小型彫刻–宇宙開発の中で命を落とした宇宙飛行士たちを追悼する目的があるとされる―を制作。アポロ15号のクルーによって、月面に設置された。惑星上に設置された作品の最初期の例と考えられる。同作品のものを含め、様々な画像や映像を確認できる。
Gordring, E. 1986 “"Desert Sun/Desert Moon" and the SKY ART Manifesto”
砂漠に設置した複数の鏡面により太陽光を宇宙空間へと反射、それを衛星のカメラに写そうとする実践に関する記録。この実践は、空中にアートを展開する“スカイ・アート”でもあり、同アートの意義や可能性についての記述も厚い。
Stevens, B. 2022“From Earth to Space and into NightVisions”
宇宙空間における真空状態を作品完成に利用したジョセフ・マクシェーンのガラス彫刻(NASAのGet Away Specialプロジェクトとの協働で1984年に打ち上げ)に関するニュース記事。スペースシャトルを利用した芸術作品の打ち上げの初期の実践例として重要。
Woods, A. 1993 “Cosmic dancer”
https://cosmicdancer.com/index.php
ロシアの宇宙ステーション、ミールにて1993年に展示された彫刻作品の公式サイト。無重力下での鑑賞を前提とした作品の初期の代表例。当時の映像や記録が豊富にアーカイブされている。
宇宙芸術の近年の事例
これまでの実践は地球上か宇宙船など機内、惑星地表上といったような、特定の枠内において作品の展開がなされる傾向にありました。これに対して、近年、宇宙空間そのものを舞台とした芸術実践が増加しています。また、生物学の発展なども背景として、宇宙開発の未来像を予感させるような思索的作品の制作も進んでいます。本項では、そうした新たな実践群の紹介を行います。
Paglen, T. “Orbital Reflector”
トレヴァー・パグレンの『Orbital Reflector』(2014年)は軽量フィルムで作られた彫刻。ネヴァダ美術館との協働プロジェクトで、スペースXのロケットに載せられ、実際に作品自体が宇宙空間に打ち上げられ、地球軌道上を周回した。
多摩美術大学 “ARTSAT”
多摩美術大学、東京大学共働での世界初となる芸術専用衛星ARTSATの公式webサイト。2014年2月、太陽非同期軌道に投入された。衛星や宇宙機を「宇宙と地球をつなぐメディア」と考え、インタラクティヴなメディア・アート作品などの展開を目指すプロジェクト。
実践の記録や映像も確認することができる。
Sony “アーティストとの共創 | STAR SPHERE”
https://starsphere.sony.com/ja/artist
Sony製のカメラを搭載した超小型人工衛星「EYE」を用いた芸術プロジェクト。実際に打ち上げられた宇宙視点のカメラを使っての作品制作をアーティストに依頼。実際の作品などの確認ができる。
Liu, X. 2020“Sojourner 2020 | An international art payload to ISS”
https://www.media.mit.edu/posts/sojourner-2020
MITメディアラボ宇宙探査イニシアチブによる、芸術作品の打ち上げプロジェクト。生物学的背景を持った作品などがある。
古山寧々 2024 “Noah's Ark”
https://nenekoyama.github.io/my-website/html/24na.html
東京科学大学の研究員でもあるアーティスト古山寧々の作品。動物のDNAを注入した小型彫刻の月面への打ち上げを試みる。
European Space Education Resource Office Art&Space
https://www.esero.at/de/art-and-space
欧州宇宙機関とアルスエレクトロニカセンターの協働による、欧州宇宙教育リソースオフィス(オーストリア)のアートプロジェクトに関するwebサイト。インドネシアのメラピ火山の一部分をテラフォーミングするアートプロジェクト(Vermeulen, A et al. “Merapi Terraforming Project”)や宇宙空間での健康的生活を可能とする為、個人の腸内細菌叢の調整を行う宇宙服の制作(Dolinšek, D. “Biosymbiotic Exoskeleton”)などがある。
宇宙芸術と倫理
前項で見てきた近年の実践は宇宙空間での作品展開におけるデブリの問題や、テラフォーミングのような惑星表面上への作用可能性など、宇宙倫理学に関連するテーマを持っています。ここではそうしたテーマと関連した先行研究を紹介します。
伊勢田哲治 2018 「宇宙に拡大する環境問題––環境倫理問題としてのスペースデブリ」伊勢田哲治ら編2018『宇宙倫理学』昭和堂pp127-142.
スペースデブリの定義、現状における対応策の確認を行う。更に、デブリの存在を宇宙空間という環境に対する改変行為とみなし、環境倫理の観点から考察。
岡本慎平 2018「惑星改造の許容可能性―火星のテラフォーミングを推進すべきか」伊勢田哲治ら編2018『宇宙倫理学』昭和堂pp143-158.
1980年代以降、行われてきた火星のテラフォーミングに関する倫理的議論を概観。地球外の環境である「火星」の改変に対して、どの程度の道徳的配慮を行うべきか、配慮を行うとしてどういった論理的根拠を設定し得るのかが主な争点となっている。
Cockell, C. S. 2005. “Planetary protection – A microbial ethics approach” Space Policy (21)pp287-pp292.
惑星間の移動に際して起きる、微生物レベルでの環境汚染の可能性について倫理学の視点から考察。微生物には生態系のレベルなどでは価値が認められるものの、微生物それ自体の内在的価値に関しては言説的なものにすぎないとした上で、より現実的な宇宙における環境倫理を考える。