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火星における人類社会プロジェクト

06 【レファレンス】宇宙の国際関係

執筆者:川名 晋史(未来社会創成研究院 特定教授/大東文化大学 法学部政治学科 教授)

宇宙活動は国家間の競争や協力、国際法と深く関係しています。冷戦期の米ソの宇宙開発競争や、現在の米中を中心とした技術・資源・安全保障の争いは、宇宙の国際関係の主たる構成要素です。また、宇宙活動を取り巻く法制度やガバナンスの問題は、各国の宇宙戦略や民間企業による投資、国際協力のあり方と連関します。以下では、宇宙の国際関係を、①宇宙政策とその歴史、②宇宙と安全保障、③宇宙法・ガバナンスのそれぞれの観点で論じている文献を紹介します。

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1.宇宙政策と歴史

宇宙開発の進展は国際政治、とりわけ米ソ冷戦の影響を強く受けてきました。その歴史をたどることは、現在の米中対立を前提とした将来の宇宙政策の動向を理解する手立てとなります。以下では、宇宙政策と歴史を扱った研究・著作を紹介します。

Paul B. Stares, The Militarization of Space: U.S. Policy, 1945-1984, Cornell University Press, 1985.

冷戦期の米国の宇宙政策を史的に考察している。著者が注目するのは、スプートニクや偵察衛星が登場したにもかかわらず、対衛星兵器の開発が1970年代後半まで抑制されていた点である。1950年代の米国は偵察衛星を守るため、軍拡を抑制し、米国の宇宙活動を「平和的」に行うことを望んでいた。しかし、ソ連による衛星迎撃実験が現実化したことで、米国は対衛星兵器の実験を推進するようになる。著者によれば、この時点で宇宙における軍備競争は不可避となったとみる。宇宙軍拡の起源を考えるうえで重要な研究である。

Walter A. McDougall, The Heavens and the Earth: A Political History of the Space Age, Johns Hopkins University Press, 1997.

宇宙開発競争の歴史を技術史ではなく、政治史として捉えている。著者はソ連の「テクノクラシー」(社会機構や産業資源などを高度な専門技術者の手で管理・統制しようとする思想)こそが、ソ連が米国に先駆けて宇宙に進出できた原因とみている。そのうえで、スプートニク・ショックに直面した米国もまたソ連に対抗するために国家主導で技術開発を進め、皮肉にも「テクノクラシー化」していく過程を描いている。宇宙開発が、第二次世界大戦後の現代国家の骨格形成に重要な影響を与えた可能性が示唆される。

John Krige, Ashok Maharaj, and Angela Long Callahan, NASA in the World: Fifty Years of International Collaboration in Space, Palgrave Macmillan, 2013.

NASAが行ってきた国際協力について、関係者へのインタビューと一次資料に基づき考察している。欧州、ソ連(ロシア)、日本、そしてインドなどの関係各国との宇宙開発利用に関する国際協力について、NASA(米国側)の視点から目的と意義が示されている。NASAの視点から、米国の宇宙政策の具体的な歩みを知ることができる。

佐藤靖『NASA―宇宙開発の60年』中央公論新社、2014年

1958年、冷戦下において設立されたNASAは、傘下の研究センターを互いに競わせながら、アポロやスペースシャトル、国際宇宙ステーションといった計画を進めてきた。しかし、予算削減や事故、国際情勢の変化により、その役割は常に変化を余儀なくされた。本書は今後の宇宙開発や科学技術政策を考える上で重要な教訓を提示している。

鈴木一人『宇宙開発と国際政治』岩波書店、2011年

宇宙開発国の政策意図と目的を歴史的に明らかにし、地域協力やグローバル・コモンズのガバナンスへと展開してきたことを論じている。宇宙システムがもつ「越境性」が国際政治の在り方に影響を与え、競争の帰結として、むしろ国際的な協調と調整が必要となることを明らかにしている。今後の日本及び世界の宇宙政策のあり方を考えるうえで示唆に富む。

青木節子『日本の宇宙戦略』慶應義塾大学出版会、2006年

国際宇宙法を軸に各国の宇宙戦略や安全保障政策を解説し、日本の進むべき方向を探っている。宇宙開発の歴史や国際宇宙法の概説、衛星通信や軍事利用、平和利用政策、スペースデブリ問題、各国の国内法制、アジアの宇宙協力など幅広い論点を取り上げ、実務的な視座から整理されている。

渡邉浩崇編『宇宙の研究開発の歴史―日本はいかに取り組んできたか』大阪大学出版会、2022年

日本及び主要各国の宇宙政策や宇宙計画に関する歴史を、政策、法律、科学技術、産業の視点でまとめている。本書のカヴァー範囲は広く、日本、米国、ロシア、そして欧州の宇宙政策史から、日本の宇宙開発の主要な実施主体である宇宙開発事業団、宇宙科学研究所、そして民間の宇宙産業の歴史までを網羅している。多様な国家・主体によって進められる宇宙開発の全体像を理解できるだろう。

2.宇宙と安全保障

宇宙空間は国家の安全保障戦略や国家間間競争の直接的な影響を受けます。衛星や通信網の利用は地上の軍事・経済戦略と密接に結びついています。以下では、宇宙における安全保障の問題を考察した文献を紹介します。

Everett C. Dolman, Astropolitik: Classical Geopolitics in the Space Age, Routledge, 2001.

宇宙空間を陸・海・空に続く地政学的領域として捉えている。マハンやマッキンダーなど古典的な戦略論を宇宙領域に援用し、宇宙の支配が地球上のパワーバランスを左右すると論じている。ラグランジュ点や地球低軌道、静止軌道といった地点の管理の重要性や、宇宙兵器の戦略的意義についても考察されている。

福島康仁『宇宙と安全保障―軍事利用の潮流とガバナンスの模索』千倉書房、2020年

宇宙と安全保障の問題について、「安全保障のための宇宙」と「宇宙のための安全保障」という二つのアプローチで分析されている。前者は宇宙開発の進展が地上の安全保障や軍事作戦に与えた影響と変化について論じ、後者は宇宙空間における秩序形成の問題を論じる。宇宙の軍事利用の歴史から、未来の宇宙における秩序形成まで包括的な視座が得られる。

倉澤治雄『宇宙の地政学』筑摩書房、2024年

日米欧、中国、ロシア、インドの激化する宇宙開発競争について、各国の技術力や安全保障上の位置づけを史的に整理している。とりわけ、これまで十分に明らかでなかった中国の宇宙戦略やその技術水準についての分析が優れている。米中の宇宙をめぐる角逐と、中国の実力伸長の背景理解に役立つ。

3.宇宙法

宇宙での活動は国家間協力と国家間競争という性質の異なるふたつの事象の産物です。そのいずれの事象にも関わるが宇宙法です。衛星の打上げや軌道利用、資源開発などに関わる国際的なルールは、各国の利益調整や安全保障、民間参入に直結するため、宇宙の国際関係を理解するうえで不可欠です。以下、宇宙法を学べる文献を紹介します。

小塚荘一郎、佐藤雅彦編『宇宙ビジネスのための宇宙法入門 第3版』有斐閣、2024年

宇宙ビジネス参入を目指す事業者向けに、宇宙法の基礎を解説している。最新の国内法(宇宙資源法)や国際合意(アルテミス合意など)、そして民間企業による活動の法的課題まで宇宙法の現在地を概観できる。法学研究者と企業法務の実務者による入門書である。

青木節子、小塚荘一郎編『宇宙六法』信山社、2019年

宇宙法に関する主要な国際条約と日本の国内法を網羅的に論じている。宇宙条約、宇宙活動法など、宇宙開発・利用の法的基盤をなす条文について編者による解説がついており、研究者、実務家、学生にとってはさながら宇宙法の「六法全書」である。