Report

【EEI】【CWRA】食の進化ワークショップ/第19回ウェルビーイングラウンジ「熱帯雨林狩猟の変遷と野生肉の食文化」を開催しました

2026.01.30
  • Planetary Wellbeing
  • 食の進化
  • イベント
  • ウェルビーイング
  • Evolutions in Eating

【食の進化ワークショップ/第19回ウェルビーイングラウンジ 「熱帯雨林狩猟の変遷と野生肉の食文化」】
日時:2025年12月5日(金) 16:00-18:00
講演者: 総合地球環境学研究所/京都大学 本郷峻准教授
テーマ:食の進化ワークショップ「熱帯雨林狩猟の変遷と野生肉の食文化」

食の進化イニシアチブ/第19回ウェルビーイングラウンジ(CWRA)によるワークショップ「熱帯雨林狩猟の変遷と野生肉の食文化」を開催しました。

 2025年12月5日に本郷峻准教授(総合地球環境学研究所准教授/京都大学白眉センター特定講師)をお招きして、野生肉(wiled meat)が文化の中でどのような意味を持つのかを議論しました。本ワークショップは東京科学大学湯島キャンパス特別講堂で開催され、さまざまな観点から意見交換が行われました。

 今回のワークショップでは「熱帯雨林狩猟の変遷と野生肉の食文化」という題で本郷准教授から講演をいただきました。本郷准教授のご専門は生態学で、アフリカ地域を中心に野生動物の生態やその保全を研究されています。近年では「地域知と科学との対話による公正で持続的な狩猟マネジメント」という大型学際プロジェクトをリーダーとして主導され、世界の熱帯雨林で野生動物の保全と地域住民の狩猟生活・文化の両立を目指されています。
 講演では、最初に野生肉について説明されました。野生肉(wild meat)は、魚類を除く野生脊椎動物の可食部と定義されます。この定義は筋肉や脂肪といった成分ではなく、「食べられるかどうか」に注目するものであり、人間本位の定義だといえます。なお、霊長類学の知見から、今生きている霊長類は、人を除いてほとんどの動物が肉を食べないことも紹介されました。人類が常習的に肉を食べていた証拠が見つかり始めるのは約200万年前であり、サバンナと熱帯雨林の境界領域が人類の活動場所になったことが肉食の開始にかかわると考えられています。
講演では続いて、熱帯雨林での野生動物の狩猟の実態が紹介されました。中部アフリカの熱帯雨林では、20世紀以降に狩猟技術が効率化し、鉄製のワイヤー罠や散弾銃が用いられるようになります。ワイヤー罠の普及にともない中型哺乳類が主なターゲットになっていきます。一方、アマゾンでは銃が入ってくる時期が早かったのが特徴です。ただしアマゾンの野生肉の生産量は、アフリカより少ないとのことでした。講演では実際の狩猟場面の写真や動画も紹介されました。槍を用いた狩猟の動画は臨場感にあふれていました。
 野生肉の食文化では、アフリカ、アマゾンとも多様な野生動物が食されていることが紹介されました。野生肉は多くの場合煮て食べられます。植物の濃いソースを付けたり、お湯で煮たりされるようです。野生肉の食は規範の維持にも関わっています。たとえばアフリカのバカという民族では、ゾウを最初に仕留めた人はその肉を食べられないルールがあり、こうしたルールが社会の平等性を維持していると言われています。野生肉は住民にとっての不可欠な収入源というイメージが強いかもしれませんが、実際は料理で他の資源や植物と組み合わせられ、文化的性質を強く持つことを本郷准教授は強調されていました。
 本郷准教授が進めている研究プロジェクトも紹介されました。都市部での需要などを背景に、現在、野生肉が多く捕られすぎていると懸念されています。問題の対処には、保護区を作り狩猟を禁止する保全と、地域の人々の対話・参加をともなう保全の2つの方向性があります。プロジェクトでは、後者の保全を目指し、研究者と地域のハンターたちが協力して、野生動物の数をモニタリングし、狩猟を調整するマネジメントを考案しています。住民を経験にもとづく専門家と捉え、知識を共同で生成していくことを目指しています。
 講演の最後には、肉食の未来を考えるための問題の図式が提案されました。野生肉と家畜肉を分けることが必要であり、それぞれにともなう環境(生物多様性等)、健康(感染症等)、倫理を考察していく重要性が指摘されました。

 ディスカッションでは活発な質疑応答が展開されました。「地域において野生肉に向けられる欲望と、都市部での肉食に対する欲望とはどのあたりまで共通しており、どの点が異なるのか」、「地域では、肉以外のタンパク質がどの程度摂取できるのか」といった質問は、地域における肉の位置づけを確認するものでした。これに関し、本郷准教授から農村部のハンターたちには肉をうまく獲りたいという狩猟(上達)への欲求もあり、狩猟の学習を通じて文化の中でのアイデンティティを得る経緯も説明されました。

 「なぜ人類は肉を食べるようになったのか」、「同じ種同士を食べる/食べない、殺す/殺さないというのは(人間以外の動物で)どう決まっているのか」といった肉食の生物学的な背景に言及する質問もあり、進化論の観点から説明されました。
 「商業的狩猟が入る前までは、狩猟数のバランスがとれていたのか」、「単純に、野生動物が減るから狩猟を控えようとする動機付けは存在するのか」、「プロジェクトを進めていく際、住民側に多様性保全への動機づけがないのは難しいのではないか」、「狩猟で賃金を得た人はそのお金を何に使ってるのか」といった質問に対しては、調査地域の背景や、住民の認識、プロジェクトの直面する課題が詳細に説明されました。
 そのほか「生物多様性はさまざまな評価軸があると思うが、どのように評価されているのか」、「日本で問題になっているクマ問題も狩猟や食べることで解決できるか」、「食肉に対し宗教的な意味は与えられているのか」といった興味深い質問があり、テーマ全体への理解が深まりました。
 
 肉食といえば都市部での消費活動を前提としがちですが、今回の野生肉に関するワークショップを通じて、肉を獲る行為の重要性、またそれが地域の文化や、動物の生態・保全と深く関連することを確認できました。

未来社会創成研究院 ウェルビーイング創成センターについてはこちらのページをご覧ください。