【DLab+】Ars Electronica、CERNを訪問
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2025年9月4日から9月10日にかけて、DLab+の古波藏契准教授、塚本隆大URAが海外視察を行いました。
海外視察の背景・目的と行先
未来社会創成研究院では、科学的知見をベースに、アートを用いた未来像の作製を推し進めています。この観点から、アートとサイエンスの世界における先行例を視察し、実際の様子の把握や我々の活動に資するデータを収集、また、そこに関わる人々と協力関係を築くことを目的に視察を行いました。
行先は、Ars Electronica(オーストリア)、CERN(スイス)となります。
Ars Electronicaは1979年から続くアート・テクノロジー・社会の関係性を探求する国際的なプラットフォームです。世界で最も著名なテクノロジーアートの芸術祭(Ars Electronica Festival)や、同分野において権威のあるコンペティションの開催などを行っています。
CERNこと欧州原子核研究機構は、サイエンスの領域において極めて有名な施設ですが、アートの領域でも重要な活動を行っています。同施設の一部署であるArts at CERN はアーティストインレジデンスを軸に、展示、多国間や地域との連携プロジェクトを実施、2024年には、欧州委員会がサポートする「S+T+ARTS Prize」を受賞しています。
また、DLab⁺では地域や社会との対話を目的とした学外拠点の構築も行っており、CERNにおける社会連携・イノベーションチームであるIdea Squareへも訪問をしました。
オーストリア―Ars Electronica―視察について
9月4日に日本を発ち、まず向かった先はオーストリア(Ars Electronica)。同施設は前述のように1979年から続く歴史的なテクノロジーアートの団体で、オーストリア第三の都市リンツに本拠地を構えています。
組織としては、常設の展示などを行うArs Electronica Center、研究開発や外部との積極的なコラボレーションを行うArs Electronica futurelab、Ars Electronica Festivalのための実行委員会などで構成されています。ここでの視察の目的は大きく分けて二つ。一つは9月開催のArs Electronica Festivalを実際に観察し、テクノジーとアートの協働実践の最先端を作品・展示方法・その文脈といった多角的な視点から理解すること、もう一つは現地の関係者との議論から我々の今後の活動に資する知見を得ることです。
まずはArs Electronica Festivalについての詳細と、その内容についてご紹介します。イベントはリンツ市を挙げての年に一回の巨大イベントで、メイン会場となるポストオフィスをはじめ、リンツ大聖堂やリンツ芸術大学など街中にサブ会場が置かれます[1]。
各会場にて、コンペティションによって選ばれた作品の展示や、様々なイベント・シンポジウムが開催―1,000人以上のアーティスト、科学者、起業家などが集結―されています。
今年のコンペティションでは、98か国から3,987件の応募があり[2]、「New Animation Art」「Digital Musics & Sound Art」「Artificial Life & Intelligence」といったジャンルごとの実践から、欧州委員会がサポートし、産業や社会のイノベーションを触発するアートを対象とする「S+T+ARTS Prize」、市民による科学コミュニケーションを顕彰する「European Union Prize for Citizen Science」まで幅広い取り組みを見ることができます[3]。
Ars Electronica Festivalでは、まずメイン会場のポストオフィスの展示を視察しました。第一に印象に残ったのは、その展示の仕方です。
1階はアルスエレクトロニカの組織の一つFuture labの成果物やS+T+ARTS Prizeへの応募作品といったアートとサイエンスの協働についてポジティブな姿勢の作品が多く、また、飲食エリアやワークショップ系エリア(家族連れも多い)もあり、比較的明るい雰囲気となっています。例えば、アーティストグループThe Wild Future Labは《Climate Resilient Jacket / Klimafeste Jacke》 で、ナイロビの路上にて頻繁に見られる看板を再利用したジャケットを提案しています。このジャケットには太陽光パネルも付けられており、携帯電話の充電を行うことが出来ます。この実践はテキスタイルの発明による持続的でウェアラブルな未来の可能性―言い換えればテクノロジーによる、より良い社会変化の可能性を示しているといえます。
《Climate Resilient Jacket / Klimafeste Jacke》
それが一転、地下のバンカーと呼ばれるエリアになると、照明も暗く、別世界に連れてかれたように感じます。ここでは、Prix Ars Electronicaというカテゴリーへの応募作品などを中心に、現代社会やテクノロジーへの批判を含んだ作品を多くに見ることができます。
現代社会の課題との関連では、いわゆる気候危機や人新世・モアザンヒューマンといった潮流の中に置かれるであろう作品が数多く見られました。例えば、Jerónimo Reyes-Retana による《Void in Resonance》では、スペースXの施設から発射されるロケットの衝撃波が4キロ離れた牡蠣養殖場に与える悪影響が明かにされます[4]。ここでは二つの事実が可視化されます。一つは〈空間と音〉というレベルで繋がっている我々と他種の生態系の存在、もう一つはそれが宇宙産業という新たな発展によって危機に面しているということです。
次いで、テクノロジー批評的実践としてはAIやロボットをテーマに扱うものが多くありました。Calin Segal の《WHISPERS》はAIを用いたインスタレーション作品です。ソーシャルメディア上のインフルエンサーの言動を学習した複数のAIアバターが観客の提示した話題に従って議論を行います[5]。この過程を通して、ソーシャルメディアのAIアルゴリズム上の問題点―注目を集める為の修辞法、その極端さなど―が浮かび上がります。
以上のような展示空間の在り方からは、テクノロジーとアートの協働に多くのヴァリエーションがあり、見せ方にも様々な工夫の余地があることを読み取れました。1階の展示では、社会課題の解決へと向かうポジティブな側面に光を当てていましたが、バンカーの展示では、一種の緊張関係に焦点を当てていました。同時にアートを通して示された未来像や問題のうち、どこまでが科学的に既に実証されている部分で、どこからが想像的なものであるかのバランスや見せ方についても考える部分がありました。
また、展示されている作品はどれも現実の社会情勢や課題を背景として意識しているのですが、その対象としている事柄に若干の偏りがあり、実際の現場における文脈や濃淡を知ることもできました。この、文章からでは分からない現地の雰囲気を知ることは今後、国際的に活動をしていくにあたって意識すべきポイントになってくると思われます(そして、この文脈や濃淡はそれが西欧か東欧かアメリカかアジア・アフリカか…などでも異なってくるはずです)。
続いて、現地のシンポジウムにも参加、また、関係者との個別のミーティングも行いました。それらの中で、積極的な質疑を行い、アーティストとサイエンスの研究者との協働に関する方法論や、そもそも、なぜサイエンスにアートが必要かなどについて重要な知見を得ました。また、ここで得た信頼関係をもとに、Ars ElectronicaのMatthew Gardiner氏に我々DLab⁺主催のオンラインイベントに登壇して頂くなど、継続性を持った関係の萌芽なども得ることができ、極めて価値のある体験となりました。
スイス―CERN―視察について
続いて、CERNでの視察について記していきます。ここではCERNが主宰する芸術プログラムART at CERN、CERNの協働とイノヴェーションのプラットフォームIdea Squareなどについて視察しました。
ART at CERNは、2012年に最初のアーティスト・イン・レジデンスを実施して以降、ヨーロッパの主要文化団体と行う共同プログラムや展示に関する様々なコミッションなど、多く活動を行ってきました。ここでは、アート作品を通して、一般の人々とCERNを繋げるのみならず、芸術と科学とが協働する広範なグローバルネットワークの構築も目指されているといいます[6]。
Idea Squareは内外の学生、科学者、他のCERN関係者、そして分野を超えた関連組織間の協働のプラットフォームを提供する組織です[7]。ここでは様々なハッカソンやワークショップなどを通して、イノヴェーションと協働の促進を試みています[8]。 今回は、これら組織の活動や様々なアプローチなどについて関係者やCERNの研究者なども交えて広範かつ活発な議論を行ってきました。特に、これはArs Electronicaでもよく聞かれた言葉であったのですが「アーティストとサイエンティストが良い協働を行う為には共に時間を過ごし、互いの活動について気軽に話し合える環境を作ること」の重要性が繰り返し語られたことが強く印象に残りました。
[1] 参照元:Locations – Ars Electronica Festival 2025: Panic
[2] 参照元:Winners – Prix Ars Electronica
[3] 参照元:プリ・アルスエレクトロニカ2025 作品解題:「わからなさ」のなかで、未来をどう選び取るか | WIRED.jp
[4] 作品の説明についての参照元:Ars Electronica のカタログ『Festival catalog 2025』77頁。
[5] 作品の説明についての参照元:Ars Electronica のカタログ『Festival catalog 2025』78頁。
[6] 参照元:About Arts at CERN | where art meets science 、Collide | Residency at CERN open to artists worldwide
[7] 参照元:About | IdeaSquareを参照。
[8] 参照元:Ideas, collaboration, and lots of coding at the 2nd Next Generation Triggers hackathon | IdeaSquare 、Design fiction workshop for hybrid prototyping | IdeaSquare