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D Lab+科学×アート=オルタナティブな未来
火星における人類社会プロジェクト

08 【レファレンス】宇宙と神話

執筆者:愼 允翼(未来社会創成研究院 DLab+ 研究員)

宇宙からみた近代的な人間主体は、まずその種としての強さを拡張主義的に打ち出すものから始まり、それからテクノロジーの発展や帝国主義的な闘争のなかで広がった時空概念を再考する段階を経由して、いまでは人間の弱さや脆さを通じた惑星規模の繋がりを意識させるものへと至っています。本ページでは、19世紀以降の地球において、いかにさまざまな宇宙的想像力が、人間主体を構築、再構築してきたかを紹介します。

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Ⅰ. 宇宙と神話を繋ぐ包括的な資料

わたしたちの実存に対する問いは、決して目に見える答えを与えはしない。内向的な問いを止めて身の回りに目を向けても、世界は無限に広がっているように思われ、わたしたちは慄くばかりである。しかし、「神話」にはとりわけ人格化された具体的な物語を通じて、人間にとって計り知れないこの「宇宙」を可視化する機能があった。「宇宙」と「神話」はそれぞれ深淵を覗かせるようだが、相互に結び付くことで人間に普遍的な世界観を提供する。以下はその包括的な議論を集めた著作である。

1.池内了『宇宙論と神』、集英社、2014年、電子版

古代から現代に至る宇宙論の変遷を神との関係からたどる解説書。古代神話から近代科学、現代宇宙論までを縦断し、神も宇宙も共に遠く捉えがたい対象であるなか、いかに人間の宗教的・神話的想像力と結びついてきたかを整理する。特に「宇宙の始まり」をめぐる物語の類型化は分かりやすく、宇宙観と宗教観を一体的に理解するための入門的手引きとなっている。

2.篠田知和基編『天空の世界神話』、八坂書房、2009年

各地の天・太陽・月・星に関わる神話伝承を論じた比較資料集。日本・沖縄・アイヌから、朝鮮・台湾先住民、インド、スラヴ、北米先住民までを視野に入れ、信仰・儀礼・叙事詩に見える天空観を論考する。日本を代表する神話学者15名が寄稿し、「日月神話」「空間認識」「風神雷神」「星の神」「羽衣伝説」など多彩な章が収まる。

3.松村一男『神話学入門』、講談社、2019年、電子版

神話学の基礎を学ぶための入門書。近代に芽生えた神話学が、どのような思想的背景—言語学、進化論、精神分析、宗教の実証的研究、科学的視点、さらにはナチズム—と交差しながら変遷したかを、代表的研究者(ミュラー、フレイザー、レヴィ=ストロース、エリアーデ、キャンベル)の概観を通して解説する。

Ⅱ. 起源神話から人生を意味づける

啓蒙期には新世界への進出(侵略戦争)を踏まえた社会の変動を前に、人間と社会の「起源」を問いながら未来を構想する思想が生まれた。さらに20世紀には、国境も学問領域も超えた学術研究チームが発足し、考古学上の発見と解釈は飛躍的な進歩を見た。同じく、各地域の文化や伝承に人類共通の思想的遺産を見出そうとする神話学も成立した。神話はいつしか単なる過去の産物ではなく、わたしたちの存在の意味や世界との関係を問い、意味を見出し、未来を構想する物語の母型となった。

4.ジャン=ジャック・ルソー『言語起源論』増田真訳、岩波書店、2016年

人間社会と言語の根源的関係を探った、ルソーの隠れた古典。豊穣な「永遠の春」で平等に暮らしていた人類が、「地軸の傾き」という偶然の一撃によって不幸への道を邁進し、多様な言語と文明も展開したとする独特の起源論を展開する。言語によって規定されると同時に、言語によってしか自らを表現できない人間の条件を描き、普遍的な「人類」を言語で語ることの意味について探る。宇宙に進出する人間が、新たに共同体を形成するに際しても、言語の作用についていかに留意すべきか考えさせられる。

5.ジョゼフ・キャンベル『千の顔をもつ英雄(上・下)』平田武靖/浅輪幸夫監訳、人文書院、1984年

世界各地の英雄譚に共通する構造を「ヒーローズ・ジャーニー」として提示し、古今東西の物語に普遍的な型を示した比較神話学の古典。ギルガメシュ、オデュッセウス、ブッダ、古代文明の英雄の冒険を舞台に、出立・試練・帰還を主たる要素とした構造が解読され、多くの創作や思想に影響を与える。ジョージ・ルーカスが本書の構造を『スター・ウォーズ』に応用したことは特に有名。

6.『宇宙意識――神話的アプローチ』鈴木晶/入江良平訳、人文書院、1991年

1980年代初期に行われた講演を基礎にした論文集。世界中の神話的イメージを次々に展開しつつ、著者自身の「永遠と超越性」に関する思想が平明な言葉で語られる。宇宙の無限に比した人間の卑小さへの感覚は誰もが経験するものだが、この感覚は人間の条件である「存在論的深淵」に由来するという。そして、この深淵を介して「身体=内なる宇宙」「宇宙=外の宇宙」との同一視といった知識のあり方も可能になる。かくして、世界の神話と現代の日常生活との接続が示唆される。

7.ミルチャ・エリアーデ『永遠回帰の神話――祖型と反復』堀一郎訳、未来社、1963年

伝説や古代社会に関する考古学的実例を踏まえ、宗教的儀礼には天地開闢の技を反復させる機能があることに注目し、古代人の時間観および歴史観を再構築した宗教学・神話学の名著。この時間論的な刷新は、歴史を直線的・不可逆的とする近代的な思考に対し、神話的な思考に含まれる回帰する時間を強調する。そして、儀礼は神的かつ超越的な時空を、俗的ないし日常的な時空の中に再現する仕組みだという。かくして、宇宙における人間の地位を確認する実践が神話に見いだされるのであり、現代においてはいかなる実践や体験が可能であるのか暗に問われる。

8.『聖と俗 宗教的なるものの本質について』風間敏夫訳、法政大学出版局、1969年

「聖なるもの」と「俗なるもの」という二つの要素から、現代社会のように俗なる世界との対比を通じて、宗教的な人間の在り方を提示する。「聖なるもの」は宗教史学における重要な研究対象であり、神話や古代社会において人類の生存を支えた価値だが、それは歴史の進展とともに衰退しているように見える。しかし、俗なるものに塗れた現代人もまた聖なるものに満たされた古代人との系譜的な連続性にあって、聖なるものを離れることができない。宇宙に今の世界とは違う輝きを見出そうとするなら、人間は宗教的なものへの考察を必要とする。

Ⅲ. 新しい神話としてのSF

はじまりは悠久の過去にのみ存在したのではない。はじまりは突然に来訪し、いまも誰かに踏み出されるのを待っている。新世界との邂逅によって広げられた想像力は、19世紀を通して、科学の見る現実をも凌駕する冒険譚を描き始めた。テクストはやがてデジタルという魔法を手に入れ、遠い未来を具体的に可視化することで、新しい神話を与える。それは、地球外の生活、あるいは宇宙への果てしない進出において、人間が他の生命体と出会い、進化しうる可能性の予言ともいえよう。

テクスト編

9.シラノ・ド・ベルジュラック「別世界または日月両世界の諸国諸帝国」赤木昭三訳『ユートピア旅行記叢書第1巻』岩波書店、1996年

主人公ディルコナ(「わたし」)は、友人たちの地球中心主義的な世界観に対する反発心から、月への旅行を思い立つ。新大陸への落下、月への再出発、月世界での事件と追放を経て、ディルコナは地上に体験を持ち帰る。しかし彼は地上で受け入れられず、逮捕されてしまう。彼は脱出を兼ねて今度は太陽世界へと旅立つが、その行末は未完に終わる。全体を通じて、古代ギリシャ哲学やデカルト哲学、さらには当時最新の天文学までもが自在に言及される。ただし、その主眼は思想的な論争を喚起することよりは、あくまでも別世界を自由に描き出すことにあろう。実際、「わたし」を突き動かすのは、何が正しいかという真理への関心ではない。閉ざされた場所や思考の限界を突破しようとする欲望なのである。「科学と虚構は一致しつつも、決してサイエンスフィクションの幻想には陥らない」(ジャック・プレヴォによるエディションの解説p.28)とすれば、この一致は現実を変えようとする人間の意志の表出と読める。信念に従って法則をも乗り越えようとする態度はプロメテウス的欲望とも言われ、神話のパワーを再認させる。こうした点にこそ、本書がSFの古典でありながらSFの未来でもある所以が見出せる。

10.ジュール・ヴェルヌ『月世界へ行く』江口清訳、東京創元社、2012年、電子版

巨大な大砲によって月へと射出された弾丸には、大砲クラブの会長、軍人、冒険家の三人が乗り込んでいた。彼らは身体を張って月を目指しながら着陸に至らず、結局のところ人間は月に居住不可能というほとんど自明の結論を確認するだけである。本作は、この無駄ともいうべき時間を三人のばからしい会話劇によって進行させる。興味深いのは、ほとんど全編を通した舞台装置としての船内の描き方であろう。スペースシャトルのような何らかの任務を達成するためにすべてが整えられた場所ではなく、食べたり眠ったり談笑したりという人間の快適な生活環境が、そこにある。宇宙という未知の領域で起こる様々なアクシデントに対し、ヴェルヌが提示する対抗策はひとまず人間的な態度を維持することなのである。実際、三人の決死の行動は、観察対象と観察者の間の距離を人類の観測史上もっとも小さくしたのであり、得た結論それ自体は予想通りであるにせよ、有人飛行を新たに展開する契機ともなっている。エンタメ的な楽観主義とビジネス的な開発主義を描きながら、どこかそれを冷徹に見つめているヴェルヌの視線が感じられるのである。

11.H・G・ウェルズ「タイム・マシン」橋本槇矩訳『タイム・マシン 他九篇』岩波書店、1991年

タイム・トラベラーが紀元802,701年の世界へ。地上のエロイは享楽的で脆弱、地下のモーロックは労働者階級の末裔としてエロイを食料とする。社会進化の逆説を目撃したタイム・トラベラーは、太陽の在り方も変容した遠い未来で、凍てついた海岸で怪物じみた蟹に出会い、世界終末の気配を記録する。帰還後の証拠は乏しく、彼自身についても再出発の先はいわゆるオープンエンドとなる。階級・退行・科学幻想を重ねた近代SFの古典。また、人称や話の入れ子構造を利用した表現の豊かさも興味深い。

12.レイ・ブラッドベリ『火星年代記 新版』小笠原豊樹訳、早川書房、2012年、電子版

火星に移住した地球人たちの遭遇する事件が、年代記の形式で描かれていく。ただし、個々のエピソードには連続性がみられない。そして、地球からの移住がどのような経緯で進展しているのかといった背景事情についての説明も、主題的には強調されない。この読み筋に対する謎に加えて、火星人の特徴も不穏である。原子力を最大の武器とする地球人に対し、火星人はテレパシーや幻覚を駆使する。それゆえ各エピソードで報告された語りそれ自体が信用ならない。その一方で、「二〇三三年八月 夜の邂逅」にはロードムービーのような明るさがあり、若者・老人・火星人の時間を超えた交流も描かれる。重要なのは、「いつも何かしら新しいものがある」火星において、住環境のみならず、時間や自己のスケールに対する意識の変容を「楽しむこと」である。このアイデンティティの可塑性に、地球人のフロンティア精神を読んでもよかろう。

映画編

13.ジョージ・ルーカスほか(監督・原案・製作総指揮)『スター・ウォーズ』シリーズ、ウォルト・ディズニー・カンパニー(権利所有)、1977年-現在

銀河を貫く「フォース」を軸に、ジェダイとシスの対立、共和国と帝国の興亡、スカイウォーカー家の三世代にわたる栄光と悲哀を描くサーガ。各時代の戦争・陰謀・師弟継承は、フォース=「生命が生み出し銀河を結ぶ力」という設定の下につながっている。神話的英雄譚の構造を宇宙規模の政治史に重ねた物語世界は今でも続いている。

14.スティーヴン・スピルバーグ(監督)/ジョージ・ルーカス(原案・製作総指揮)/デヴィッド・コープ(脚本)『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』、2008年

1957年。考古学者インディはKGB将校イリーナ・スパルコの陰謀に巻き込まれ、若者マットとペルーへ。伝説の都市アケトールの水晶髑髏を追うなか、失踪した学友オクスリー、旧恋人マリオンの行方、そして「来訪者」をめぐる謎が交錯する。古代の神々や伝承が語る神秘的な知識は、本作では「来訪者」というSF的設定へ言い換えられる。また、髑髏をしかるべき場所へ返す行為は起源回帰の儀礼を想起させる。本作は『最後の聖戦』までの伝説的なおもしろさには劣るとしばしば言われてきた。しかし、神話とSFを連関させる媒介にインディを置くことで、「ヒーローズ・ジャーニー」の変形を読むこともできよう。

15.クリストファー・ノーラン(監督・脚本)/ジョナサン・ノーラン(脚本)/キップ・ソーン(製作総指揮)『インターステラー』、2014年

作物の絶滅が進む近未来。元パイロットのクーパーは、土星近傍のワームホールを通って人類が移住可能な候補惑星を探る任務に参加する。探査先では重力による時間のずれや過酷な環境に直面し、人間同士の陰謀も巻き込みながら、物語はやがて超巨大ブラックホールへの侵入という予測不可能なスケールへ。ノーベル物理学賞受賞者による徹底した科学考証を背景に、家族の絆と人類の存続を描く壮大な宇宙探索譚。なお、ブラックホールの中に落ちたらひとはどうなるのかという「子どもっぽい」疑問に対し、現代の科学で応答可能な限界を示したCGは圧巻。そして、この映像効果は家族愛という極めて人間的な主題へと回帰する重要なファクターとなっている。

Ⅳ. 宇宙神話の未来像

21世紀の地球における実社会では、一方で個人の尊さが叫ばれながらも、もう一方でインフレーションし続ける世界を前にして、誰もが文字通り「星屑」のようでしかありえないようにも思える。とりわけ、子どもや障害者のように自立した活動手段を持てない人々は、メタヴァースやオンライン空間に別の世界を開拓しているように見えるが、それはただ一つの現実世界から隔離されているとも解釈できる。しかし重要なのは、「星屑」が宇宙に波紋を投げかけ、新しい「起源」の一撃を生み出すことである。そして、アニメ・特撮作品にもそんな影響力のある作品は多い。次にあげるのは、「はかなき者たち」のために勇気を与えるような「子ども向けの」作品である。

アニメ・特撮編

16. 高橋和希(原作)/小野勝巳ほか(監督)/冨岡淳広ほか(シリーズ構成)『遊☆戯☆王5D's』テレビ東京系列、2008-2011年

舞台は近未来、ネオ童実野シティ。下層区出身の不動遊星は、奪われた「スターダスト・ドラゴン」を取り戻すべく、バイクに乗りながらカードゲームを戦うライディング・デュエルに臨む。ライバルたちとせめぎ合いながら、“赤き竜”に選ばれたシグナーの一人として都市の運命に関わっていく。物語の核には「星屑」のモチーフがあり、散らばった欠片としての個人が友情を結び直し、ひとりでは届かない力を星座のように編成していく関係の物語として描かれる。

17. 石森プロ(原作)/中島かずきほか(脚本)/坂本浩一ほか(監督)『仮面ライダーフォーゼ』テレビ朝日系列、2011-2012年

宇宙開発の人材育成を目指して創設された天ノ川学園。転校生の如月弦太朗は「全員と友達になる」目標を掲げ、「仮面ライダー部」に参加。廃棄されたロッカーと接続した月面基地ラビットハッチを拠点に、変身アイテム・フォーゼドライバーを駆使して戦う。敵怪人ゾディアーツや幹部ホロスコープスは星座をモチーフとし、星の力は生徒の孤立や欲望の歪みを具現化する。部活の積み重ねが関係を結び直し、欲望と人間関係の調整が宇宙ギミックと噛み合う「青春銀河」として学校生活が解釈される。

18. 稲垣理一郎(原作)/Boichi(作画)『Dr. STONE』集英社、2017-2022年

謎の光で全人類が石化。石神千空は仲間と科学を一つずつ積み上げ、火薬・ガラス・電気を再発明して文明を再起動する。石神村に伝わる百物語は、国際宇宙ステーションにいた宇宙飛行士の口承に由来する伝説で、再生の羅針盤となる。対立軸の獅子王司との戦いを経て、石化装置の正体が徐々に解明されていく。物語はやがて月への旅立ちへ収斂。神話的な祖先譚と技術の蓄積が結びついて、人類の再生が描かれていく。